今日も知らない街を歩く

雑記に近い形でちまちま書いていきます。

人狼TLPP参加迷走記 -おまけ・文豪準備のために書いた原稿-

こちらはおまけです。

書きかけですが、役作りのために書いた原稿を置いておきます。

 

以下、原稿

 

人狼のはなし               大泉 多雲

 

 人狼。それは満月の夜に人間を食べた狼が、月光の魔力でその人物になりすまし、家族や友人を夜ごと1人ずつ餌食にしていく、忌むべき存在。



 「どうしたのナナ?眠れないの?」
 小さな女の子の人形を抱えて寝室から出てきたナナを心配して、デイジーが尋ねた。
 「うん。」
 右目を手でこすりながら、ナナと呼ばれた少女が答えた。
 「ミルク飲む?眠れない時は、体を温めれば眠れるから。」
 「うん。」
 眠気はあるけど、寝付けないのだろうか。いつもはベットに入ったらスイッチを切ったようにストンと寝てしまうのに、珍しい。少し不思議に思いながら、デイジーはホットミルクを入れるためにキッチンへ向かった。

 「ママ。怖い。」
 「怖い?」
 まだ片手で持つには大きいマグカップを持ちながら、ナナは脅えた表情をデイジーに向けた。
 「ママとパパが、『じんろう』だったらどうしよう。」
 ナナの言葉に、デイジーは昨日ナナに読み聞かせた絵本を思い出した。この村に伝わる人狼伝説をモチーフにした絵本。
 「あら大変。ママとパパが『じんろう』だったら、あっという間にナナは食い殺されちゃうわね。」
 「えっ、えっ?!」
 まるで日常会話をするかのように恐ろしい事を話すデイジー。
 「でも、ナナは『じんろう』に襲われてないわよね。」
 「うん。」
 「ママとパパが『じんろう』だったら、ナナは襲われてる。でも、ナナは襲われてない。ということは。」
 「ママとパパは『じんろう』じゃない!」
 事実に気付いた -というよりはデイジーの誘導にあっさり乗った- ナナは、大発見をしたかのように顔を輝かせてデイジーを見つめた。
 「良かった、ママもパパも『じんろう』じゃないんだ!」
 (これで眠れそうね)
 嬉しそうなナナの顔を見て、デイジーは自分の作戦が成功したことに安心し、ナナをベットに向かわせた。

 寝室のドアを音を立てないようにそっと開け、ベットの様子を確認した。かすかにナナの寝息の音が聞こえた。どうやらナナは今度こそ安心して眠りについたらしい。デイジーはリビングのテーブルのジンジャークッキーを食べながら、夫であるダンカンの帰りを待つことにした。

 (でも、最近確かに変なことが多いのよね)
 数日前に村の北側にある水車が故障したことをデイジーは思い出していた。デイジーはダンカンと共に菓子屋を営んでいるが、水車の故障により小麦粉の仕入れに難儀した。しかしそれ以上に二人を不安にさせたのは大工のデュークの言葉だった。水車が壊れたのは、自然故障ではないというのだ。デュークは村一番の大工だし、水車を作り毎日水車を点検しているのもデュークだ。つまり、デュークの点検の目をかいくぐって水車を故障させた人間がいることになる。だが、誰が何のために?
 外の雨音は激しさを増しているように思えた。例年、この季節に激しい雨は降ることはあまりない。自警団の会議に出ているダンカンはまだ帰って来ない。議題は最近増えた畑荒らしの対策、と聞いているが、ダンカンは北側の水車が壊されていたことを気にしていた。自警団の会議にはデュークも出ているので、水車のことも議題に上がっていたとしたら、会議は長引くだろう。
 ナナが寝付けないこと、北側の水車が壊されたこと、例年以上の激しい雨、最近増えた畑荒らし。普段起こらないような出来事が同時に起こると、何か不吉なことの前触れのように感じてしまう。例え、一つ一つがなんの関連も無かったように見えたとしても。一度そう感じてしまうと、それを頭から追い払うのは難しかった。だから玄関から「ただいま」と帰宅を告げる声が聞こえた時、デイジーはほっと胸を撫で下ろした。それと同時に、自分が言いようのない不安に襲われていることを意識せざるを得なかった。

 「ダンちゃん、お帰りなさい。遅かったのね。」
 「ごめんね。自警団の打ち合わせが長引いちゃって。」
 デイジーから渡されたタオルで濡れた髪と顔を拭きながら、ダンカンは答えた。長い会議を終えて疲れていたが、出迎えてくれた妻の顔を見ることでダンカンの疲れは和らいだ。
 「ナナは…もう寝てるよね。」
 「うん。寝付けなかったみたいだけど、ミルクを飲んでベットに入ったらすぐに寝たわ。」
 「そうなんだ。珍しいね、寝付けないって。」
 ダンカンは寝室のドアを音を立てないようにそっと開き、ベットで眠っているナナの姿を確認した。デイジーの言う通り、ナナは布団にくるまって安心したように眠っていた。本当はナナの顔をもっと間近で見たかったが、また起こしてはいけないと思い、寝室の扉を少し開けて確認するだけにしておこうとダンカンは思った。

 

  明日も引き続き自警団の会議が行われることになったため、ダンカンはデイジーを先に寝かせ、明日の会議の準備を始めた。水車小屋の件は、自警団内で疑心暗鬼の種を広げただけで何の結論も出ず、話さないほうがマシとしか思えなかった。疲れた頭ではあまり生産的なことはできないことを理解しているものの、考えるのをやめることはできなかった。

  (何が起こっているんだ…?)

  会議の準備をひと通り終え、冷たくなった紅茶を飲み干し諦めて寝ようとしたその時、目に止まった村の地図。ダンカンはあること気付きペンを取り地図に次々と印をつけていった。 印をつけたのは、畑荒らしや機械の故障などトラブルが発生した場所、そして最後に水車小屋。

(間違いない…北上している!)

 時系列順に追うと、印は南から北へと移動していた。

(でも…なぜこんな動きをしているんだ?人為的なものだとしたら、北に何がある?)

 閃きがまた来ないかと粘って考えてみたが、何も思いつかなかった。どうやら今日はもう頭を使い果たしたらしい。さすがにこれ以上の夜更かしは、明日の店の準備に差し障りが出てしまう。ダンカンは、明日また考えることにし、寝室へ向った。

 

  北側の国境近くにある賢者様の魔除け。

  この存在を失念していたことを、ダンカンは激しく後悔することになる。

 

 人狼。それは満月の夜に人間を食べた狼が、月光の魔力でその人物になりすまし、家族や友人を夜ごと1人ずつ餌食にしていく、忌むべき存在。

 

 

 終章
 太陽が登る前に目を覚まし、生地を捏ねてパンを焼く。自分でもよくわからなかったが、パンジーは今日もそうしようと思った。

 パンを焼いたところで、このパンを食べる村人はもういないのに。

 

 (何が「お姉ちゃんだったら仕方がない」だ。) 

昨夜襲撃した時のデイジーの表情。デイジーが表したのは、驚きでも恐怖でもなく、ただ悲しみだった。自分が死ぬのに、どうして恐怖を表さないのか。人狼には理解できなかった。

 

 自分たち人狼を封印していた村人を、ようやく滅ぼすことができた。犠牲は払ったがようやく自由の身になれたのだ。しかし、まだ各地には封印されている仲間がいる。仲間を助け出し、いままで封印してきた人間たちに復讐を果たすための戦いはまだ終わらない。
 もうこの村に戻ってくることはないだろう。

(さあ、始めようか、戦いを。)

 瞼の裏に残るデイジーの姿を振り切るように、人狼パンジーは早足で歩き始めた。

 工房の石窯は主人を失ったことに気付いていないかのように火を炊き続け、煙突からはいつまでも煙が吐き出されていた。

                                                                      -完-