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今日も知らない街を歩く

雑記に近い形でちまちま書いていきます。

感情の折り合いの付け方と他者との関わり方ついて (1) -8年前のmixi日記サルベージ-

  最近、物語を書く機会があった。稚拙ではあるけれど、物語を書くのは楽しい。一番楽しいのは、書き終わって初めて「自分が言いたかったことは何なのか」ということがわかったりする。

  高校の頃もPBMとかで物語を書いていた。概要は覚えているけど当時の原稿は見つからなかった。大抵こういうのは黒歴史として葬り去りたいと思うのだけど、なぜかあまりそうは思わない。気持ちが一周したからなのか、もう原稿が見つからないから公開される心配がないから、なのかはわからないけど。

 

  そういえば、と思い出して久々にmixiにログインして過去の日記を漁った。果たしてそこには「胸キュンバトン」と題したタイトルの日記があった。

「あなたの胸キュンポイントは?」「憧れの胸キュンシチュエーションは?」といった質問に答えて、次に答えて欲しい人を指名するという、一時期流行ったバトン形式。そこでバトンが自分に渡されて書いた日記。  当時、年齢=彼女いない歴ということもあり、この手の質問に答えたり嗜好を表明するのがものすごく恥ずかしかった。そこでとった方法が、「好きなシチュエーションのディテールをひたすら細かくして、言いたいことをぼかす」というものだった。

  以下、8年前のmixi日記の該当箇所をほぼ原文ママで抜粋してみる。

 

-------------ここから抜粋--------------------------


■Q2憧れの胸キュンシチュエーションは? 
*******************妄想開始*************************** 
 もしも、大喜利がテニスみたいに体系化されたスポーツで、インターハイみたいなのがあったら、というところから始まります。 
  
 中学に入ってから、勉強は学年主任の山崎と折り合いが悪いこともあって、すっかりやる気が無くなった。運動は、水泳をすれば耳に水は入るはこむら返りを起こすはで悲惨な状況になるし、球技なんて球に触れた試しがないわで大嫌いだった。そんな僕は、同級生たちが勉強にスポーツとか読書とか女の子とか、とても楽しそうに学生生活を送っているのをただ指をくわえて見ているしかなかった。楽しいことなんて何一つ無かった。 
 中学三年の夏休み。友達もいない僕は、やることと言ったら家でテレビを見ているだけ。いつものようにタモリ小堺一機小沢真珠を見たら、後はもう夕飯までいかに無駄な汗をかかないで過ごすか、それだけだった。どうせ外に出かけてたところで、女の子はもちろん、他の同級生にも相手にされないで、暑い中ハアハア言いながらダラダラ汗を掻くんだ。夏なんが大嫌いだ。結局僕はつまらないと思いながら、テレビのリモコンを操作して、チャンネルを変えた。たまたまチャンネルがあったNHK。何かホールのようなとこで、一対一で男が二人、椅子に座りながら何か書いていた。 
 それが、大喜利IH(インターハイ)だった。 

 二人が舞台に座って出されたお題に次々に答えていく。答えのたびに、会場から現れる爆笑、微妙な空気、唸り、様々な反応、そして会場全体が一つになるグルーヴ感。不思議な感覚だった。そして決着がつき、選手が立ち上がり握手を交わす。 

 「……俺も答えてぇ」 

 あのお題だったら、もっと別のアプローチがある。あそこで、あの人スベってあのネタ諦めちゃったけど、天丼で何とかなったよ、あれ。俺だったら、俺だったら。俺だったら。 
 僕はいつのまにか、画面の前で汗をかいていた。額に、そして手に。 
 そして画面の前では、優勝者が決まっていた。画面に出た「優勝 大名高校 板野 一大」のテロップといかにも爽やかそうな、それでいて闘いを終えた後の勝者のみが表現できる笑顔。普段は小沢真珠の罵倒台詞しか記憶しないような海馬を必死で動かし、優勝者の高校と名前と姿を記憶した。 

 半年後に控えた高校受験。僕は猛勉強する決意を固めた。 

 中学三年の冬、12月24日。この日は、クリスマスイブではない。Man of the 大喜利(以下マンオブ)の日である。きっと意図的にこの日にしたんだろうけど。日本学生大喜利連盟が自主的に開催している、学生の中での大喜利日本一を決定する大会だ。幸い、学校単位での出場ではなかったので、僕は個人で参加をすることが出来た。抽選で対戦カードを決める一回戦。抽選で当たった相手は、 
 「板野 一大」。 
 高校に入ったら対戦してもらおうと思っていたけど、まさか、こんな早く対戦することになるなんて。 
 ……勝ってやる。 

 「非モテにとってのモテの絶頂とは、どのようなものか?」 
 お題が出された。 
 「はい!」 
 えっ……そんなに早く? 
  
 気がつくと、僕は板野さん圧倒されて何もネタを出せずにいた。矢継ぎ早にネタを出して、テンポ良く笑いをとっていく板野さん。このままではいけない。せめて、一つだけでも、ネタを出したい。制限時間が1分を切った。 
 「はい!」 
 僕はネタを出した。 
 「富士の樹海を潜り抜けて、ついに奥飛騨に辿り着いた」 

 ちょっと声に力が入ってしまったと自分でも思った。でも、会場からは微妙な空気は、感じられなかった。どうやら少しウケたらしい(今思えば、ウケたかどうかが分からないのは場の流れが読めていなかったからで、負けて当然だったと思う)。せめて、一矢は報いようと思ってとにかく僕はネタを出しまくった。可能な限り、生身の女性を出さずに表現。情けないシチュエーション。地名、下ネタ。 

 でも結局、一回戦で負けた。多分判定に持ち込めただけ良しとするべきなのだろう。記念にと思い、僕は板野さんに握手をしようと思った。すっかり汗ばんだ右手をハンカチで拭いて、板野さんと握手を交わした。 
 「ありがとう。最後はヒヤっとしたよ。富士の樹海がもっと早く出されていたら、ちょっとまずかったかもしれない」 
 僕は思う。きっとあの言葉はリップサービスなんかじゃなかったと。板野さんの手は、汗ばんでる、というレベルじゃなかった。汗を掻いていた。 

 こうして僕のマンオブは終わった。板野さんも準々決勝で敗退して、前評判の高かった大学二年の人が、順当に優勝した。その人も闘いを終えた後の勝者のみが表現できる笑顔をしていた。 
 僕もいつかはあんな風に笑える日が来るのだろうか。 

 僕の鼻っ柱は折られたけど、立ち直りは早かった。勉強の甲斐があって、大名高校を狙えるレベルまで行けたのが大きかったんだと思う。残りの中学生活三ヶ月は、誰とも喋らず勉強と大喜利の自主トレだけで埋まった。 

 文字通り桜が咲いた4月。大名高校の制服を着て大喜利部の門を叩いた僕を待っていたのは、間抜けで非情な現実だった。 
 「板野?去年卒業したよ」 

 そうだ。確か板野さん、高三だった……。せっかく対戦できると思ったのに。間抜けで非情な現実にがっくり肩を落としていたら、名前を呼ばれた。 
 「あれ?タウン君じゃない?」 
 振り向くと、そこにはセミロングの髪をした少女が立っていた。 
 「やっぱりそうだ!久しぶりー、おんなじ高校だったのは掲示板で知ってたんだけど」 
 「や、やあ。久しぶりー」 
 誰だっけ? 
 必死で海馬からこの女の子の名前を探した。 

 「この薄汚いブタ野郎!」 
 違う、小沢真珠の罵倒台詞なんかどうでもいい。この子の名前だ。誰だ?誰だ? 
 そんなことを考えていたのが顔に出ていたのだろう。彼女が助け舟を出すように言った。 
 「……あっ、えーと、私、松田だよ。中三で一緒だった」 
 「……えっ!?松田さん!?」 
 「えー、そんなに驚かないでよ。確かに髪とか変えたけど」 
 表面的に驚いたのは正解だったらしい。実のところ、僕は名前を聞いても誰だかわからなかった。この後、僕は家に帰って卒業アルバムをあわてて見返したのだが、「松田佐智子」という名前の上にあった写真はおかっぱ頭のいかにも昭和の女学生といった感じの女の子で、なかなか今日会った松田さんとリンクしなかった。正直、中学時代の同級生なんて話したことも無かったし、二年の終わりごろには同級生に対する興味も失っていたので三年生の同級生なんてほとんど覚えていない。松田さんはよく僕のことを覚えていたな、と思う。でも良く考えたら、「掲示板」って言ってたから、きっと自分が行く高校にもう一人行く僕を、こんな風に事前に卒業アルバムで確認しただけなのだろう。 

 8月。第105回大喜利IH第一回戦。僕は舞台の上で富山代表と向かい合っていた。 

 結局、板野さんはいなかったけど、大喜利を続けていきたいという気持ちに変わりは無かったので、僕は大喜利部に入部した(入部届を出しに行ったら、すでに松田さんがマネージャーとして入部していたことを知り驚いた)。入部して最初の新入生歓迎大喜利(と銘打たれた新入生に対するシゴキ)で、100本大喜利を難なくこなした事で、僕は板野さんの穴を埋める貴重な逸材と見なされていたのだけど、その後調子を落とし新入生大喜利大会で最下位になったりで、先輩や同級生からは、 
「浮き沈みのえらく激しいヤツ」 
 と呼ばれていた。そしてIH地区予選、運よく僕に絶好調の波が来た。地区予選が終わって、全国へと駒を進めたのは僕一人だけだった。そして僕は、今IHの会場に大名代表選手としてここにいる。 

 富山代表と向かい合い、席に着く。僕の右隣には松田さんがいる。
  
 「タウン、サポーターをつけてみたら?」 
 地区予選終了後のミーティング、たまたま近くに来たから、と顔を出した板野さんからこんなアドバイスをもらった。確かに正式なルールでは、二人がネタを出し合うダブルスでなくても、シングルでもネタの相談などを出来るサポーターを一人だけつけられることは出来る。ただ、シングル戦では手数が多いほうが基本的に有利なのと、相談でネタに迷いが出てしまうことがあるという理由で、サポーターをつける人はほとんどいない。実際、当の板野さんも「迷いが生じるから」という理由でサポーターはつけていなかった。 
 「僕も迷いが生じるし、そもそもネタの相談なんてしませんけど……」 
 「いや、ネタの相談は必ずしもしなくていいんだ。試しにつけてみてごらん。タウンはムラっ気があるから、それを押さえる、という意味でもね」 
 そんな僕たちの会話に割り込んできたのが、松田さんだった。松田さんは僕たちのサポーターについての話をしているところに割り込んできて、私がサポーターをやりたいと言い出したのだ。今までサポーター無しでやってきたのに、大事な全国大会でいきなりサポーターありで調子が狂うかもしれない、と僕は反論したが、松田さんと板野さんのあまり根拠の無い確信(としか思えない)に押し切られてしまった。 

 対する富山代表は、本人だけでサポーターはいない。自分たちが一日目一回戦のカードで、時間にはまだ余裕があった。右に人がいるという状況に落ち着かなくて、僕は松田さんに尋ねた。 

 「あの……なんでまた、僕のサポーターをやるって言い出したの?今まで聞けなかったけど」 

 僕としては、単に試合開始まで間をつなぐための質問だった。しかし、返ってきた答えを聞いて、僕は心臓を吐き出すくらいビックリした。 

 「なかなか言える機会が無かったけど……。去年のマンオブでの富士の樹海ネタ、すごく面白かったよ。それで、『あ、タウン君ってクラスじゃおとなしいけど、こんな面白い人なんだ』って思って」 
 「えっ……………なんでそのネタ知ってるの?」 
 「だって私もいたもん。マンオブに」 
 絶句。 
  
 松田さん曰く「参加申請したけど、間に合わなくて参加できなかったから見学だけでもと思って行ってみたら、僕と板野さんが対戦してた」らしい。だとしたら、 
ジャケ買いしたエロDVDが当たり」 
脱衣麻雀を1コインクリア」 
といったネタまで聞かれていたに違いない。誰も知り合いがいないし、下ネタもバンバン言ってやれと思っていたのに松田さんに全部聞かれていたなんて。そう思うと急に恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。 
 そんな動揺した状態で試合が始まってしまったので、僕はあっさり富山代表にイニシアティブを取られてしまった。 

 それからは、防戦一方だった。相手は決定打こそ打てないものの、巧みな言いまわしで着実にポイントを重ねていく。対する僕は、ポイントは獲得できるものの、ネタを作るペースが鈍いため富山代表との点差が広がっていった。しかし、ここで富山代表がファウルをした。審査委員長いじりのネタが、ネタではなく侮辱とみなされたためだ。きっと決定打を焦ったに違いない。僕は15秒間のフリーバッティングタイムをもらった。点差と残りの試合時間を考えたら、ここで決めないと負ける。

 フリーバッティングスタート。しかし、ネタが出てこない。いや、正確にはネタは出てくるのだけど、なかなかきれいな形にならない。試しに書いてみても、とても逆転できるネタとは思えない。ペンを持つ右手が震えた。ネタに自信が無くなる。ネタが書けない。制限時間が刻一刻と迫ってくる。もうダメなのか……その時だった。 

 右手に、包み込まれるような柔らかく温かい感触。松田さんが手を重ねていた。はっとして、僕は松田さんの顔を見る。彼女は微笑んでいた。 
大丈夫。」 
 彼女は何も言わなかったけど、彼女の目が、彼女の表情が、彼女の手が、そして彼女の温もりがそう言っているように聞こえた。 
 いつのまにか右手の震えが治まっていた。 

 制限時間が迫ってくる。こちらを苦渋の表情で睨み付けている富山代表。僕は相手を見つめ返し、彼女の手を重ねたままネタを書いた。あれほど苦しんでいたのがウソのようにあっさりネタは出来た。いける。フリーバッティング1秒前。彼女と一緒に書き終えたネタを僕は出した。 

 会場が爆発した気がした。そして試合終了のブザー。 


 僕の絶好調はここまでだったらしい。最後の大逆転で富山代表に勝った後の二回戦、僕は北海道代表にあっさりKO負けをくらった。もっとも、優勝したのはこの北海道代表だったし、ムラっ気があることは皆知っているので、責めるような声は全く無かった。 

 夏休み最後の日。つまり、一般的な学生にとっては地獄の日。僕は図書館にいた。宿題をするためではない。大喜利に集中したい一心で急いで宿題はさっさと片付けたため、僕自身の宿題はもう残っていない。 
 僕は彼女の宿題を手伝いに来たのだ。 

 「何、標準偏差って?意味わかんない。なんでわざわざ二乗して平方根出すわけ?」 
「だから、分散だとデータを二乗するでしょ?ところが、二乗しているから分散のままだとデータが扱いにくいんだ。そこで、平方根でデータを元に戻す。これが標準偏差」 
「こんなのわかんないわよー……。」 
「大丈夫大丈夫。いったん理解すれば、そんな難しいもんじゃないから」 
僕は彼女の頭をポンポンとしながらなだめた。 

 こうして僕の高校一年の夏が終わった。来年はどんな夏を僕は迎えるのだろう。やっと、夏を楽しみに思えるようになった。もう一度IHに、出来れば、彼女ともう一度。 
*********************妄想終了************************* 
 要約:自分がピンチだったり迷いを持っていたりするとき、それを温かく見守ってくれたり乗り越える力をくれるようなシチュエーション。 

-------------ここまで抜粋--------------------------

 

 我ながらよくこれだけ書いたなと改めて思う*1。言いたいことはあるのに、どう表明していいかわからない、あるいは好みを表明することで馬鹿にされるのではないかという不安を抱えて、こういう文章を書いた。

 振り返って考えるのは、これもひとつの自分なりの感情の表明であり、他者との関わり方を表していたのだろう、ということ。今でこそ他者と普通に対面で話ができるようになっているけど、自分にとって、他者とのコミュニケーションの原点は「書くこと」だったのではないのか、と考えている。それだけに、もっとライティングスキルをきちんと身につけて来なかったことを今になって悔いている。この辺は、もう少し書いていきたい。

 

 全くの余談。

 このmixi日記のコメントで「小西真奈美の100の大丈夫」というサイトを教えてもらった。本サイトはもう無いけど、一部はyoutubeで見られる。久々に見たけど、やっぱり良い。

 


ちゃんとみてるからね 小西真奈美「今日の大丈夫」05/10/21 - YouTube

*1:小沢真珠」という人選が時代だなあと思う。