今日も知らない街を歩く

雑記に近い形でちまちま書いていきます。

「いま」苦しんでいる人に必要なのは逃げ延びるための指南書

  少し前にこんなツイートを見ました。

 かつて辛いことを抱えていた人間の一人として、このツイートに書かれている「広い世界が待っている」というのは本当にそうだと思います。今となってはあの中の狭く息苦しい空間には二度と戻りたくないし、大人になれて本当に良かったと思っています。

  ただ、それだからこそ、このツイートには思うところがあります。内容はその通りだけど、「いま」苦しんでる子どもたちには果たしてどれだけ響くのだろうか、と。苦しんで居る子どもたちは「今」つらいのをどうにかしたいのに、この内容では「中学で勉強しておくと進路が広がる、だから今は大変だろうけど耐えろ」というメッセージとして受け取られてしまうのでは無いだろうか、と思うのです。

 

一番大事なことは「生きのびる」こと

 朝日新聞で鴻上尚史氏の記事がありました。

www.asahi.com

 鴻上氏は「絶対に死なないこと」が大事で、そのために「遺書を書け」と勧めます。以下引用します。

 次にあなたにしてほしいのは、絶対に死なないことです。

 そのために、自分がどんなにひどくいじめられているか、周りにアピールしましょう。思い切って、「遺書」を書き、台所のテーブルにおいて、外出しましょう。学校に行かず、1日ブラブラして、大人に心配をかけましょう。そして、死にきれなかったと家にもどるのです。  それでも、あなたの親があなたを無視するのなら、学校あてに送りましょう。あなたをいじめている人の名前と、あなたの名前を書いて送るのです。

 はずかしがることはありません。その学校から、ちゃんと逃げるために、「遺書」を送るのです。

 死んでも、安らぎはありません。死んでも、いじめたやつらは、絶対に反省しません。

 あなたは、「遺書」を書くことで、死なないで逃げるのです。

 

 遺書を書くのは、逃げるため。 この記事は、親や先生という「子供世界の外側の世界」にアプローチするように書いてあるのはいいと思います。ある世界の中で起こった問題は、その世界の中で解決できることだけではなく、特にいじめについては世界の中では解決できない*1んだから、外の世界に助けを求めないと解決できません。

 だからこそ、なぜ子どもたちは、(かつての自分がそうだったように)外の世界に助けを求めるのを拒むのか。この問題に焦点をあてなくてはいけません。

 

どこのコミュニティにも居られなくなるという恐怖

 だいぶ昔の話であることも有り、当時のことを思い出すことは困難でしたが、根底には「学校」というコミュニティに居られなくなるという恐怖があったのだと思います。今は学校というコミュニティに所属できないことは何も問題ありませんが、当時は大問題でした。なぜか。そこに所属できないことは、未来が閉ざされるという事を意味している(と思い込んでいた)からです。

だいじょうぶ。この世の中は、あなたが思うより、ずっと広いのです。

 あなたが安心して生活できる場所が、ぜったいにあります。それは、小さな村か南の島かもしれませんが、きっとあります。

  鴻上氏はこう書きますが、どれだけの子供がこの言葉を信じて行動ができるか。狭い世界で生きていて、自分のいる世界以外の世界が想像できないくらい追い詰められている子供に「世の中は広い」という言葉がどれだけ届くか。ましてや、その世界に自分が行くことができると考えられるか。

 あまり明るい展望は想像できませんでした。

 

  鴻上氏の言っていることに異を唱えるつもりはありません。一番大事なことは死なないことだし、そのためには逃げる必要があります。

 だからこそ、「どうやって逃げればいいのか」まで言わないと、追い詰められている子供には届かないのではないかと思います。

 

逃げ延びた大人たちのいま

 以下紹介する記事は、いずれも逃げた大人たちの記事です。 

hase0831.hatenablog.jp

  ブログ主のはせさんは、オーバーワークから逃げずに心身を壊してしまいます。

「なぜわたしは過剰な労働を自ら引き受けてしまったのか」
「なぜわたしは自分の時間を犠牲にして仕事をやり遂げようとしていたのか」

プロの手を借りて、自分の中にあった疑問をひとつずつ解消し、なんとなく光が見えてきたとき、カウンセラーにもらった言葉があります。
「あなたを大切にしない人のことを、あなたが大切にする必要はない」

 

現状が続くことで自分の未来が損なわれるかもしれないと感じたときには、顔を上げてまわりを見渡して、一目散に逃げ出してください。誰に何を言われたって、あなた自身の人生です。自分のことを大切にしてくれない会社に、あなたの時間を、人生を賭ける必要はありません。 

 「現状が続くことで未来が損なわれる」と言う点に逃げるためのヒントがあります。もしこれが「現状を維持しないと未来が損なわれる」と考えたら、逃げるという発想は出てこなくなり、潰れてしまうでしょう。僕は、特に子供のいじめられっ子が叫びを上げない理由はこの辺にあると考えています。

 

 「現状を維持しないと未来が損なわれる」という発想に対抗するためにどうするか。

  • 現状が続くと未来が損なわれる
  • 現状を維持しないほうが未来が良くなる

 この2つをどうやって理解してもらうかが鍵です。

 

 そのためには、実例がどうしても必要です。奇しくもTwitter上でヤンデル先生が逃げた実例を募集していて、沢山集まっていました。

togetter.com

 逃げた結果がこうやって集合知となるのは、インターネットの力だと思います。生存者バイアスもあるのかもしれませんが、それでも、逃げるための指南書となるのであれば大いに有益です。

 

 きっと大人たち自身も、どうやって逃げればいいのかわからないのでしょう。だからこそ経験談を話したり、実例を集めたりと手がかりを探しているのだと思います。*2

 

 辛いことは、時に人を厳しく鍛え成長させることがあります。しかし、人が成長するのは「辛かったから」ではありません。だからこそ「辛いことから逃げてばかりいては人は成長できない」という言説には賛同できません。「辛いこと」は、本当に自身の糧になるための材料が紛れていることもあれば、百害あって一利なしの事もあったりと、玉石混交のようなものだと思っています。人を死に追いやるレベルの辛いことから逃げてはいけない理由は何でしょうか。

 

 逃げるためには逃げるための準備が必要なのだと思います。思考の転換から、実際の物理的な距離の確保まで。この辺りは集合知の力を結構信じていて、少しずつノウハウが溜まっていっているんじゃないかと思っています。

 逃げ延びられる人々が1人でも増えますように。

*1:そもそも、いじめというものは閉じられた世界でないと発生し得ないものだと思っています。

*2:さきほどのはせさんの記事の続きに、逃げるためにやったことまとめがありましたのでどうぞ。大人向けですが参考になることが多いです。