今日も知らない街を歩く

雑記に近い形でちまちま書いていきます。

悪という悲しみを一身に背負ったアイン・ジードという将軍

※この記事は「幻想水滸伝 Advent Calendar 2018」の12/20 分の記事です。

 

  幻想水滸伝シリーズで一番好きなキャラクターがいます。アイン・ジードです。

ja.suikoden.wikia.com

 

  幻想水滸伝1に登場するキャラクターですが、108星ではありません。敵役です。なぜ好きなのか。彼が悪役であることを自覚し、それを受けれて戦い死ぬ様が涙無しには見られないからです。

 

富樫左衛門として立ちはだかるアイン・ジード

  主人公たちがアイン・ジードと最初に出会うのは、逃亡中に通過しようとした「クワバの要塞」です。「シュトルテハイム・ラインバッハ3世」などの偽名で逃れようとするも、帝国には主人公の人相書きが「お尋ね者」として出回っており、主人公は疑いをかけられてしまいます。疑ったアイン・ジードが主人公の顔を見ようとした時、

 

「もうおれはガマンできん。お前はいつも足を引っ張りやがって!!!」

  主人公の付き人グレミオが、突然主人公に殴りかかります。

「お役人さん、疑うんだったらこいつの首をこの場で落としますよ!!」

  役人に向かって、グレミオがタンカを切りました。勧進帳です。

  それを見たアイン・ジードはこう言います。

「そもそもマクドール家の息子がこんなみすぼらしい恰好なわけが無い。通せ」

  こうして主人公たちは無事に通過できたのですが、去り際にアイン・ジードは主人公に声をかけます。

「おい、少年。父親を大事にしろよ」

  主人公の父親は、帝国軍の将軍テオ・マクドール。ここでわざわざ父親の話を出す理由は、主人公が何者なのか気付いていたからに他なりません。

  かくして主人公たちはアイン・ジードが見逃してくれたおかげで、無事に難を逃れます。そして主人公たちは幾度の戦いを経て、再びアイン・ジードと出会います。最終戦、ラスボスのバルバロッサ皇帝と戦うために訪れた帝都、グレッグミンスターで。

 

「間違っていること」を一人で背負うアイン・ジード

「久しぶりです、主人公様」

城門前でアイン・ジードが待ち構えていました。

「お前は・・・そうか、思いだしたぞ。クワバの城塞で俺達の猿芝居を見逃してくれた・・・」

「ああ、君は確かシュトルテハイム・ラインバッハ3世くんでしたね」

驚くビクトールに対して、事も無げにさらっと当時の偽名で呼びかけるアイン・ジード。

  

「そこをどいてくれ」
「私は帝国の将軍ですから、できません」
「もう帝国軍に勝ち目は無い!恩のある相手を斬りたくは無い!」
「私まで裏切ってはバルバロッサ様がおかわいそうだ。ここを通りたければ、このアインジードを!倒してください!」

   ビクトールの説得も失敗に終わり、主人公たちはアイン・ジードと戦うことになります。

 

  帝国に反旗を翻した主人公に集う仲間は107人。その中には圧政に苦しめられた者、そして帝国五将軍として帝国に共に仕えていた、かつての仲間たちもいます。五将軍のうち四人は反旗を翻して解放軍に着き、唯一加わらなかった主人公の父親「テオ・マクドール」は、主人公の手によって倒され、その部下のアレンとグレンシールは、やはり解放軍に着いています。

  バルバロッサ皇帝のそばにいるのは、宮廷魔術師のウィンディと自分だけ。

 

  ここからは想像です。

  アイン・ジードは、五将軍やバルバロッサがウィンディに操られていたこと、ウィンディが黒幕であったことに薄々気付いていたんじゃないかと思っています。そもそも将軍にまで上り詰めて、一度だけ聞いた「シュトルテハイム・ラインバッハ3世」という偽名を諳んじて覚えているようなアイン・ジードほどの人間が、五将軍も含めた帝国の重鎮が、解放軍について帝国に敵対することの意味を理解していないとは思えないのです。

  しかし、アイン・ジードは最後まで解放軍には加わりませんでした。アイン・ジードまで反旗を翻してしまったら、帝国に唯一残ったウィンディにいよいよ好き勝手やられてしまいます。そうなった場合、全ての責任を取るのは、ウィンディではなく、ただ操られていたバルバロッサ皇帝ただ一人です。

 

  それは、あまりにおかわいそうだ。

 

  アイン・ジードがやったことは、解放軍に加わらずに最後まで抵抗したことではありません。皇帝バルバロッサのそばにいて、ほんの少しだけ負担を和らげたことです。

  誰も、悪役にはなりたくありません。自分自身を「悪役」として糾弾されるのは良い気持ちにはならないし、人によっては耐え難い屈辱でもあるでしょう。立場が上の人間ならば、なおさらです。

  しかし、アイン・ジードは「悪役」となることを受け入れます。アイン・ジードにとっては、バルバロッサ皇帝を見放すことこそ悪でした。皇帝のそばに居ながらここまでの事態を止められなかった将軍としての責任を放棄するわけにはいかなかった。だからこそ、アイン・ジードは呼びかけたのです。

 

「ああ、君は確かシュトルテハイム・ラインバッハ3世くんでしたね」

 

 アイン・ジードはあの日、クワバの要塞で主人公を捕らえることができました。しかし、結局見逃しました。これは主人公たちにとっては良かったことですし、帝国を討つためであれば「良いこと」でしょう。しかし、バルバロッサ皇帝に使える将軍のやったこととしては「主人公だと知ってて見逃した」行為であり、悪いことです。

  アイン・ジードは眼の前の大男を「シュトルテハイム・ラインバッハ3世」と呼びました。これは、あの日クワバの要塞で見逃した一味だと認める行為です。アイン・ジードでは、自らの行為が引き起こした事態と改めて向き合ったのです。

 

 

自分たちが正しくないことを受け入れるアイン・ジード

  主人公たちは激闘の末、アイン・ジードを倒します。

「バルバロッサ様・・・先に行きますぞ・・・」

  こうつぶやいてアイン・ジードは絶命します。「先に行く」という言葉に全てが詰まっています。バルバロッサ皇帝が、自分の後に来ること、つまりはバルバロッサ皇帝が倒されてしまうことを予期したセリフです。


「こんなことは間違っている・・・」
「ああ、やつは間違っていた。だが正しくたって価値の無いものがあるように、間違っていても価値あるものは・・・あるんじゃないか?」

 

  死に様を見たフリックとビクトールの会話です。アイン・ジードは「間違って」いました。しかし、だからこそアイン・ジードは「価値のある行為」をしていたのです。

 

  きっと、自分の周りには少なからず「正しくないこと」もあるのでしょう。しかし正しくないことがあったとして、果たして自分は、その「正しくないこと」を、何の条件もなく糾弾できる立場にあるのだろうか。もしかしたら、自分の責任は少なからずあって、自分が「正しくないこと」を見つめ直さないといけないのではないか。そんなことを思うことがあります。

  アイン・ジードは、バルバロッサ皇帝の「正しくないこと」に寄り添った優しい人物だったのだと思います。

 

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今日考えているのはそんなところです。