コーヒートーク、クリア。
『コーヒートーク』は、訪れる人々との会話を楽しみ、彼らの人生をかえるきっかけとなる、1杯のあたたかいコーヒーを提供する癒やしのゲームです。あなたの店に訪れる多種多様な事情をもつ登場人物に様々な食材を試したり飲み物を提供して、彼らの持つ物語に耳を傾けてみましょう。
たまたまファミ通で紹介されてて、評判も良く、1600円と安価なこともあり購入したゲーム。
ゲームの内容としては非常にシンプル。自分はカフェのマスターで、来店する客の注文にあった飲み物を出すだけ。カフェラテと注文されたら、コーヒーやミルクなどの材料を選択して、できた飲み物を出す。材料のブレンドによっては「抹茶ラテ」のように固有の名称ができることもあるけど、基本的にやることはこれだけである。飲み物を出したら、あとは登場人物たちの会話を読むだけの、いわゆるノベルゲーである。
舞台となるのは未来のシアトル。サキュバス・人狼・吸血鬼などの異種族や宇宙人、そして人間が織りなす群像劇。異種族や宇宙人が出てくる、といっても、彼らはカフェに来て飲み物を飲み、悩みや将来のことを語るだけ。
悩みの内容も
- 親が結婚を認めてくれない
- 小説が書き上がらない
- 娘との距離感がうまくつかめない
など、現実世界で人間が悩んでいるような話ばかり。しかしだからこそ、悩みの本質が浮かび上がり、彼らが悩み、時には破局の危機を迎えながら過ごす姿に感情移入がしやすくなっている。
接客業は基本的には苦手でやりたくないけど、このゲームをプレイして、一度カフェのマスターになってみたい、と思ってしまう位である(もちろん実際のカフェはこんなきれいに話は展開しないし、数倍は面倒なこと頭を抱えることが多いのだけど)。
コーヒートークはBGMが最高である。ゲームクリア後、我慢できずに購入してしまった*1。サントラの代金とゲーム本編の代金がほぼ同じだが、別に構わない。それくらいサントラのクオリティは高く、ゲームをやらずにカフェのBGMとして流しても通用するくらいである。
ゲームをクリアした後は、自分ででコーヒーや紅茶など温かい飲み物を淹れ、このサントラを聴きながら音楽を流し、本を読んだりモノを書いたり喋ったり。本サントラは、コーヒートークの世界を現実世界へと延長できるアイテムである。
最近はZoomを使ったオンライン飲み会で盛り上がることが多いけど、コーヒートークのように、ノンアルコールの温かい飲み物を用意して、思い思いに話すと言う場があったらとても楽しいだろうなと思う。もっとも、誰かが話すとその声は必ず聞こえてしまうため、必然的に全員で話さざるを得ないのがZoomの課題だけど。少し試してはみたいと思うが、どれぐらいの需要はあるのだろう。コーヒートークのファンの方なら乗ってくれたりするんだろうか。
以下、ネタバレを含むため、できればプレイ後に読んでほしい内容。
エンディングは、人間と変わらない格好をしたニールがバリスタ(以下、主人公)と話す場面で終わる。 このことで、主人公がニールと同じ宇宙人だということが暗示されることになる。
ポイントは「ニールを初めて見た登場人物は一様にびっくりしていたけど、店で主人公とは普通に話している」こと。つまり主人公は、少なくとも驚かれない外見をしていて、社会に普通に溶け込める会話を行っていたことになる。
ニールは地球の女性と交配をしたいと望み、フレイヤらに必死でどういうことなのか尋ね、その結果「驚かれない外見」を手に入れた。きっと、「普通の会話」もできるようになったのだろう。
主人公が抱えていた困難
ここからは想像である。
では、ニールより前に地球にやってきた主人公は、どうやって「驚かれない外見」と「普通の会見」というスキルを手に入れたのか。おそらくニールと同じだったのではないかと想像している。ニールと同じように必死に他の人に尋ねながら、ときには冷たくあしらわれ、泥臭い困難を抱えながら、主人公はスキルを会得していった。
このゲームは、登場人物を異種族に据えることで、シチュエーションを現実世界の人間に置き換えることを容易にしている。外見やしぐさなどの理由から奇異な目で見られる宇宙人が、地球に馴染もうとして、驚かない外見や普通の会話を手に入れる。このプロセスは、もうすでに我々の周りの実例として存在する。例えば発達障害を持っている人が、必死で表情などを直して、会話など他人に対する応対・ソーシャルスキルを身に付けて、普通の人らしく振る舞っているとしたら。
実際に普通の人に見える人がいたとしても、そこに至るまでは、様々な困難を抱えていることは珍しくは無い。
コーヒートークは温かい飲み物を飲みながら話をするゲームである。ニールのように風習が全く違いすぎる人にはすり合わせを行い、突然人狼となってしまったガラには、ガラ・ハッドを飲ませて落ち着かせる。ポイントは、ガラ自身も「自分がコントロールできない状態に陥る可能性を予見し、事前にヘルプを出していた」こと。実際、ガラは主人公に「(発作を)抑えるための飲み物を作ってくれないか」と頼んでいた。
備えて助けを求める用意をしておけば、人は助けてもらえる。コーピングができれば、異種族と話をすることは可能だというメッセージだと捉えている。
もし自分がある種の困難を抱えていたり、誰か別の人が困難を抱えているんだとしたら。そういう人たちには、とりあえず温かい飲み物を出して話を聞く、あるいは自分の話をする。そこから少しずつ始めれば良いのだ。そんな事を考えた。
今日書きたかったことは、そんなところである。
*1:もちろんこの記事を書いている今も、スピーカーからはサントラのBGMが流れている。