今日も知らない街を歩く

雑記に近い形でちまちま書いていきます。

【一応ネタバレあり】映画「とんかつDJアゲ太郎」は生焼けだった

  映画「とんかつDJアゲ太郎」を観てきた。 

wwws.warnerbros.co.jp

   もともと原作が大好きで、映画が公開されると聞いて楽しみにしていた。このマンガはDJ・クラブミュージックを題材にしている漫画であり、アニメや映画など、「音楽を聴かせることのできる媒体」ととても相性が良いからである。

 

  しかし、観終わって思うのは「ただただ残念だった」という感想だけである。この映画は、原作のとんかつDJアゲ太郎が好きな人には正直言って薦めることができない。

 

映画が致命的に損ねてしまった原作の魅力

  「とんかつDJアゲ太郎」の原作を知らない人に対して説明するには、この1ページで足りる。 

f:id:TownBeginner:20201102211953j:image

 (イーピャオ・小山ゆうじろう「とんかつDJアゲ太郎」(集英社) 第1巻 P.38

  

  主人公の勝又揚太郎が、とんかつ弁当の配達に行ったクラブでDJを観て

とんかつ屋とDJって、同じなのか!?

と叫ぶこの1コマ。「とんかつ屋」「DJ」と、何も関係がないような2つを「アゲる」「皿」「フライヤー」など、言葉が同じという理由だけで強引に繋ぐ一コマである。この漫画は基本的にはギャグ漫画であり、このコマは笑いを取るためのコマだが、同時にこの漫画の根底に流れるコンセプトを表した1コマでもある。事実、(尺の都合でこの映画では触れられていないが)この後のストーリーで、揚太郎の妹の「勝又ころも」も、「ファッションはとんかつみたい」と考えるシーンがある。 

 

f:id:TownBeginner:20201102211949j:image

 (イーピャオ・小山ゆうじろう「とんかつDJアゲ太郎」(集英社) 第5巻 P.21

   ファッションの世界がとんかつと同じと気付くころも。

 

  しかし、映画本編ではこのシーンは残念な構成になってしまった。クラブ内で揚太郎の顔がアップになり「とんかつとDJって」と言った後に場面が切り替わる。一回切れてしまうのである。切り替わった後の場面は、揚太郎と友達がたむろしている円山旅館の一室。そこで揚太郎が友人たちに「同じなのか?」と呟くだけである。そこにはパワーがない。その後「何言ってるの?」と友達に返されてそのままシーンが続く。

  「とんかつとDJって同じなのか!?」という原作のギャグの核でありコンセプトの核を表す大事なシーンが、クライマックスでも何でもなくただの「つなぎの一シーン」になり下がっていたのである。

  このシーンを見た瞬間、僕はこの映画が失敗に終わると確信してしまった。

DJ映画かもしれないが「とんかつ」映画では全く無い

  その後のストーリーは、揚太郎が散々なデビューをしてDJオイリーがDJを辞め、そこから揚太郎がリベンジを果たしオイリーも復活、ライバルのDJ屋敷も実力を認め、苑子ちゃんがとんかつを食べに来てハッピーエンド。このストーリー展開自体は、2時間という映画の尺を考えれば問題は無い。2時間で起承転結の展開にするストーリーにするため、原作に無い揚太郎のやらかしと挫折を入れることで起伏を持たせる構成にしたことは理解できる。

  しかし、このストーリーを進めるのであれば、カットしなればならない要素があった。「とんかつ」である。シーンの合間には揚太郎の成長を見守る父親の揚作や、ぬか漬けをうまく作れるようになったなと揚太郎を褒めるシーンがあるが、とんかつの修行をするシーンが少なく、説得力が足りていない。これであれば、DJの部分に注力したほうがもっとスッキリした映画になっただろう。なにより「とんかつ」に焦点を当てる理由が薄い。理由は一つで「とんかつとDJが同じだ」というインパクトのあるメッセージを観客に伝えようとしていないからである。

  DJのシーンは(自分自身はクラブに一度も足を踏み入れたことがない、ということを先に伝えた上で)、音楽でフロアが上がるシーン、特にDJ屋敷がSTAR GUITERをかけて盛り上げ直すシーンなど、観ていて面白いところはあった。しかし、とんかつのシーンでキーポイントとなるシーンは感じられなかった。

  原作は「とんかつとDJが同じ」というメッセージがコアにあったから、とんかつの話もDJの話も楽しめた。しかし、この映画は違う。このメッセージが無いから、DJはわかるけど、とんかつはわからない。 

 

  この映画の公開直前、師匠役のDJオイリー(尾入伊織)役の伊勢谷友介が大麻取締法違反の疑いで逮捕、DJ屋敷役の伊藤健太郎がひき逃げの疑いで逮捕されてしまっている。出演者が二人も逮捕されてしまい、とんかつDJアゲ太郎が公開中止になってしまったらどうしよう、またこれでクラブシーンのイメージが悪くなってしまうのではないかと心配をしていた。しかし結果として、映画は無事に公開された(良かったと思っている)。そして映画を見終わった後に思うのは、クラブシーンへの影響は良くも悪くも無いということである。この映画は、興行的な意味でも作品的な意味でもクラブシーンへ影響を与えるだけの力が無いからである。 

 

翔んで埼玉

翔んで埼玉

  • 発売日: 2019/09/11
  • メディア: Prime Video
 

   実写映画の大成功例、翔んで埼玉。原作のテイストをしっかり守った上で全力でやれば、(一瞬とはいえ)アベンジャーズと互角に戦えるほどのコンテンツになり得る。とんかつDJアゲ太郎は、やり方によってはそういった力を持ち得る作品だったと僕は信じている。だからこの結果が本当に残念で仕方がない。 

 

 原作漫画は、期間限定で1巻は無料で読めるので、是非どうぞ。