今日も知らない街を歩く

雑記に近い形でちまちま書いていきます。

BEASTARSのうどんの出汁は何を使っているのか、メロンが味わっている疎外感

※本記事はBEASTARSのネタバレを含んでいますのでご注意ください。

 

諸々あってBEASTARSを読んだ。

  人間がいない世界で、肉食獣と草食獣が(人間のように)社会を作り暮らしている世界が舞台。肉食獣と草食獣の対立、大人と子供の対立、事件の犯人探しのサスペンス要素など様々なトピックを内包しながら、メインとなる「主人公の成長譚」は最後まで一貫しており読み応えがある面白い漫画だった。

  肉食獣と草食獣の関係から、例えば男女の関係や社会における権力の関係を連想して考察することもできるが、食事に関するトピックで、個人的に気になったことがあるので試しに書いてみる。

 

BEASTARSの世界の出汁はどんな扱いなのか

  レゴシはチェリートン学園を退学後、生計を立てるためにうどん屋でバイトをすることになる。

うどんやでバイトするレゴシ(板垣巴留「BEASTARS」13巻)

  このうどんについて詳細は描かれていないため、うどんの出汁は何でとっているのがわからない。普段の我々の社会では、うどんの出汁として使われるのは鰹節・宗田節・煮干し・昆布・いりこなど、海産物がメインかつ昆布以外はすべて動物性のだしである。一方で、BEASTARSの世界では食肉が重罪行為となっていることを考えると、「鰹節」「煮干し」という存在がどのように扱われているのかについては、2つの説があると思われる。

・食肉と同様に禁止されている

・海洋生物は輪廻転生の思想が採用されていることから、問題なく使用できる

  BEAST COMPLEXでは、海洋生物の密猟は禁止されているものの海洋生物を食べること自体は問題ないとされている。

 

密猟されてタコの串焼きになったタコを一生懸命食べるサグワンさん(板垣巴留「BEAST COMPLEX」第3巻)

  ただ、BEASTARSの最終巻では陸海首脳会談で「魚肉を陸に輸出する」と海側から提言され、陸側がやんわりと拒否するシーンが描かれている。このことを踏まえると、魚肉は陸に(少なくとも公式には)輸出されていなかったことになり、おそらく鰹節のような乾物も輸出されていないと推測できる。かつ、うどん屋は「全種族を対象に商売している」と明言しており、レゴシが海洋生物へうどんを出前していることから、海洋生物が食べても気分を害さないものと考えられる。

  よって、BEASTARSのうどんの出汁は、海洋生物の乾物は使っていない可能性が高く、昆布だしがメインと思われる。昆布以外にも椎茸や干し大根などを利用している可能性はあるが、いずれにしても味付けとしては関西風のうどん出汁だろう。一方で魚肉ソーセージの輸出が海側から提言されたことから、今後の流れとして乾物に対する扱いも変わる可能性が十分にある。鰹節や煮干しやいりこといった出汁としての使われ方を海洋生物として容認することがあれば、うどん屋も激戦区となるのだろう。

  また作中では出汁について書かれていないため、牛・豚・鶏の出汁がどのような扱いになっているのかはわかっていない。しかし、食肉をするシーンで骨までしゃぶることが下品な動作として書かれていることを考えると、骨から出汁を取るという行為もおそらく禁忌ではないかと推測される。よって、BEASTARSの世界にはラーメン屋は存在しない、または裏市にのみ存在する非合法の店として存在していると考えられる。

 

 

砂しか食べないメロンが味わっている疎外感

  なぜ出汁の話を書いたのか。BEASTARSの登場獣物「メロン」を考えるうえで、料理・食事が切っても切り離せないことに思い至ってからの連想だからである。

  メロンにとっては、食事というものがつまらない。食べ物は「砂の味」だから、肉だろうがなんだろうが、料理にマヨネーズやケチャップをドバドバかけてつまらなそうに食べている。

草食系の食事でも調味料をぶっかけるメロン(板垣巴留「BEASTARS」16巻)

  メロンは肉食獣のヒョウと草食獣のガゼルのハーフだ。作中にはレゴシの母親レゴノがコモドオオトカゲとハイイロイオオカミのハーフとして生まれ、ハイイロイオオカミとして生き、コモドオオトカゲの鱗で覆われた自分を否定する姿が描かれている。異種族の交配によって生まれた獣が抱える困難を描いたシーンだが、メロンとレゴノのハーフとしての立ち位置はぜんぜん違う。レゴノはハイイロイオオカミというアイデンティティに全振りをしている。しかしメロンは違う。メロンはガゼルのふりをしてヒョウの暴力を使いこなす。もしガゼルとして生きるのであれば、大学で講師として生計を立てるだけで良い。ヒョウとして生きるのであれば、裏社会でシシ組のボスとして君臨するだけでよく、わざわざ大学で教鞭をとる必要はない。

  「メロンはガゼルとヒョウのいいとこどりをしているように見えて、その実は草食獣でも肉食獣でもない、社会から外れた獣なのではないか」。食事に対するスタンスを見て連想したこの着想は、それほど外れていないように思う。

上質肉にマヨネーズをぶっかけて台無しにするメロンとたしなめるアガタ(板垣巴留「BEASTARS」 15巻)

  作中では肉食が禁忌であると描かれており、だからこそ肉食ができる裏市の存在や学園内で発生した食殺事件は肉食獣と草食獣の分断の象徴として描かれている。しかしメロンにとっては、その分断はどうでも良いことだ。「食べること」について肉食獣も草食獣も興味津々で喜び・活力の源として描かれている。

  その「食べること」から自分は疎外されている。

  肉食獣の食肉衝動や草食獣の肉食獣に対する恐怖は、メロンにとっては何もわからない。メロンが持っている「何を食べても味がしない」問題は、肉食獣や草食獣にとっては何もわからない。

ヤフヤに噛みつくが結局美味しさが味わえなかったメロン(板垣巴留「BEASTARS」 22巻)

 肉食獣にとっては、時として抗うのが困難になるほどの食肉衝動を持つが、それは決して草食獣を傷つけたいからでないと終盤でメッセージが出されている。美味しそうだけど我慢している肉食獣に対し、相手を傷つけたいから食べる(そして、美味しさを味わえない)メロンは、肉食獣ではない。

 

  メロンはBEASTARSという社会に存在する異物である。

  そして社会は、取り込めない異物は「排除」という形でしか対応できない。そういう意味では「分断」が存在する社会は、まだ健全なのでは無いかと思ってしまった。

 

 

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博多うどん酒場 官兵衛 大門店のごぼう天うどん。

博多うどんはあまり食べたことがないのだけど、柔らかめのうどんと優しい出汁の味は、個人的には讃岐うどんよりも好み。ただ、天ぷらも含めると讃岐うどんに軍配があがるのでややこしい。