牛乳石鹸のCMが炎上しているようです。
父と子の絆。
とある男のなんでもない1日の物語。
昔気質で頑固な父親に育てられ、
反面教師にすることで今の幸せを手にした彼。
「家族思いの優しいパパ」。
でも、このままでいいのだろうか。ふとそんな疑問を抱く。
それでも、お風呂に入り、リセットし、自分を肯定して、
また明日へ向かっていく。
がんばるお父さんたちを応援するムービーです。
(上記動画の説明文より)
動画では父親の背中を見送るカットが差し込まれていたりして、上記の説明通りにしたかったのだろうな、とは思うものの、冒頭で「ゴミを出しといて」と頼む妻に対して虚ろな表情を浮かべる主人公、息子の誕生日なのにケーキとプレゼントを買ったまま(会社の部長(?)に叱られた)後輩と飲みに行き帰るのが遅くなって妻に怒られ、風呂場で悩むシーンなどにツッコミが入りまくっています。要は、「なに自分が悪いことしているのに被害者ヅラしてるんだよ」的な感想です。
息子の誕生日だということは前々からわかっていることだし、それで妻も息子も待っているのが分かっているのに飲みに行くというのは、そりゃ妻も怒ります。仕事で怒られた後輩を励ますために飲みに行った、という言い訳はあるにしても、だったらせめて帰りが遅れる旨の連絡はしようよ、とは思います(作中で、居酒屋で電話があったのに出てません)。
というわけで、この主人公はあまり良くない事をしているというのは同意見なのですが、一方で、色々考えて(考えすぎて?)やらかしてしまった、なにか衝動的に思っちゃったのかもなあ、とも思っています。
なんでそんなことを考えているかというと、タイトルの通り、ふとコージ苑を思い出したからです。以下引用します。
【「コージ苑 第二版」 相原コージ著 小学館 P.22 】
「世田谷まで」という客に対して突然乱心して「いやだ、晴海埠頭に行く!オレはオレの行きたいところに行く!!」と、客の制止を振り切って晴海埠頭を目指すタクシードライバー。
この漫画の秀逸な点は4コマ目です。結局晴海埠頭まで来たタクシー。ドライバーは
「すいません、お客さん……」
と謝ります。今更感たっぷりです。しかし、それに対して客は、
「いや……でもその気持ちわかるよ……」
とタクシードライバーに寄り添っています。これにより、4コマのストーリーがきちんと締まっています。どう考えても悪いことをしたタクシードライバー、全面的に被害者の客、その2人が同じ場所で同じような感情を共有することで、1コマ目から3コマ目までのタクシードライバーの乱心に対する感情が回収されているのです。
牛乳石鹸のCMにはそれがありません。何かもやもやしたもの、あるいは葛藤を抱えている主人公に、やらかした主人公に、どれだけの寄り添いがあったのか。このCMを見て批判している人々も、自分自身が抱えている(あるいは抱えていた)迷いやある種のもやもやを処理できないでいる人はいたんじゃないかと思うのです。それなのに、この主人公には非難が殺到してしまった。この時点で上手く描けていないと言わざるを得ません。
後輩を励ますために飲みに行くべきか、息子の誕生日があるから早く帰るべきか。迷うこと無く後者を選ぶことができれば何も問題はないのでしょう。でも、主人公は前者を選んだ。そのプロセスをもっと丁寧に描いていれば、評価は違ったものになったのかもしれないな、と感じています。本当のことを言えば、このCMを見て批判した人々も主人公に少し寄り添えば、違う風景が見えるのではと思います。しかし、形式上でも家庭を蔑ろにしてしまっているため、きっと共感を得ることは難しいのでしょう。
昔気質で頑固な父親に育てられ、
反面教師にすることで今の幸せを手にした彼。
「家族思いの優しいパパ」。
でも、このままでいいのだろうか。ふとそんな疑問を抱く。
葛藤の題材としては、いい線いっていると思います。仕事と家庭のバランスをどうするか悩んでいるのは、女性だけでなく男性も、です。それが結果としてただの炎上に終わってしまったのは、本当に勿体無い。
あと、この記事を書くためにコージ苑をKindleで買ったのですが、やっぱり面白いですね。引用したタクシードライバーの話、ゲラゲラ笑いました。
今日考えたのはそんなところです。
せっかくなので1と3もまとめて紹介。是非どうぞ。