今日も知らない街を歩く

雑記に近い形でちまちま書いていきます。

精一杯のすべらない話

  質問箱に質問が来ていました。

「とっておきのすべらない話をしてください。(字数制限なし)」

 

  何という無茶振りなのでしょうか。

  あまり正道を歩んでいない人生である自覚は有りますが、だからと言って波乱万丈だったというわけでもありません。この手の「自分に関するコンテンツを上手くパッケージング化してプレゼンする能力」がもっとあればなあ、と思ったことは一度や二度ではありません。

  とはいえ、嘆いていても仕方がないので書いてみます。

 

<<ここからすべらない話>>

  10年以上前の話ですが、自宅でネットサーフィンをしながらタンブラーに入ったカフェオレを飲んでいました。多分、データベースとか仕事関係の記事を閲覧していたのだと思います。ネットや手元の本を見ながら読み進めていたのですが、アクシデントはその時起こりました。

  少し遠くの本を取って手元に置こうとしたところ、横にあったタンブラーに右腕が触れました。瞬間、タンブラーがスローモーションで動いたように見えました。

 

  タンブラーはノートPCの上に倒れ、どくどくと血を流すかのように中のカフェオレをノートPCの上に注ぎ込んでいきました。しばらく見ていたと思うのですが、きっと2秒程度の短い時間だったのでしょう。

「けぎゃああ!!」

僕は奇声を上げました。

 

  元来そそっかしい性格で、こうやって飲み物をこぼすことは少なくないのですが、今回はよりにもよって大事なノートPCの上です。精密機械に水は厳禁。このままだと内部のマザーボードやメモリもカフェオレで浸されお釈迦です。しかも近くにはタオルやティッシュなど水を吸い取ってくれるアイテムがありませんでした。どんなに頑張って洗面所にダッシュしても5秒程度はかかります。その5秒を果たしてこのカフェオレは待ってくれるのだろうか、いや、待ってはくれないでしょう。カフェオレは容赦の無い液体です。糖分・牛乳・コーヒーと機械を侵食するような液体の塊です。なんで水で我慢しなかったのだろうと考えましたが、もうどうしようもありません。そうこうしていくうちにカフェオレはどんどん流れ出していきます。なんとかしなければ、なんとかしなければ、液体を吸い上げないとPCが壊れる、考えろ、急げ、行動しろ、時間がない

 

 

  僕はノートPCのキーボード部に口をつけ、ずぞぞぞぞとカフェオレを啜りました。

  ほのかに優しい味がしましたが、そんなのはどうでも良かったです。少しでも液体からPCを守らなければと必死に吸い出しました。一通り吸い出した後、軽い自己嫌悪と共に洗面所へ駆け込み、右手にドライヤー、左手にタオルを持って部屋に戻りました。キーボード部の上をポンポンとタオルで軽くたたき、ドライヤーの温風を当てて祈りながら乾かしました。

   一通り作業を終えてディスプレイを確認しました。とりあえず画面はついているのでグラフィックボードは死んでいないようです。しかしよく見ると、たまたま開いていたExcelのセルに

「おいいおいおいいおいおいおいおおいたおいおたおいおたいおおいおいおいおいおいおたてお」

  という文字がずらずらと打ち込まれていくではありませんか。どうやらキーボードがイカれてしまったようです。おいおいおいおい。このまま立ち上げていたら、どうなるか分かったもんじゃないと判断し、全てのプログラムを終了させ、シャットダウン。

  しかし、一回消えたPCはいくらスイッチを押してもウンともスンとも言いません。 

 

「なんで電源切っちゃったんだ……」

  猛烈に後悔しました。くじけそうになる心をなだめながら、パソコンのマニュアルをめくりトラブルQAのページを見ると、

  「3分以上アダプタを抜いてからもう一回やってみな」

  と書いてあったので、その通りに実行しました。

 

  電源がつきました。

  やばい時に鳴るビープ音をひっきりなしに鳴らしながら起動しました。画面にはBIOSセットアップという今まで見たことのない画面が。恐怖を抱きながら祈るようにセットアップを進めた結果、夢にまで見たWindowsのログイン画面が出てきました。

   ここまで来れば、なんとかなりそうです。妹がたまたま同じ型番のPCを持っていたので、バックアップソフトを借りて、バックアップを取得しました。残念ながらiTunesのデータは容量が大きすぎで取得できなかったため断念しましたが、それでも僕は達成感でいっぱいでした。とてもとても嬉しかったです。

  あまりに嬉しかったので家族に報告しました。

 

「やった!!PC壊れそうだけどバックアップ取れた!!」

 

 後日、

「PC壊れそうなのに、なんであんなに嬉しそうだったの?」

と、僕がおかしくなってしまったのでは?と父が心配していたことを聞かされました。

 

  あれ以来タンブラーは使っていません。

<<ここまですべらない話>>

 

  未だに覚えている話です。クラウドサービスの発達した今ならもっとダメージは少なくっているだろうな、ということを書いてて思いました。でもPCに液体こぼしたら、今も奇声を上げると思います。

 

  カフェオレ入れてくるので、タオル持ってきますね。念のため。